研究概要 |
我々はこれまでに、インターロイキン3(IL-3) (J. Exp. Med, 188, 635-649,1998)やエリスロポエチン(EPO) (Proc. Natl. Acad. Sci. USA,95,4635-4640,1998)、またはEpidermal growth factor (EGF) (J. Cereb, Blood Flow Metab.,18,349-360,1998)が脳虚血に対して保護的に働く事を報告してきた.同時にIL-3やEPOでは細胞死抑制遺伝子産物Bcl-X_Lの発現増強を介して神経細胞を強力に保護すことも報告した。IL-3,EPO, EGFといったコロニー刺激因子はJAK/STAT系を介して細胞内シグナル伝達を行うことが知られており、STAT3,5によりBcl-X_Lが発現誘導され抗アポトーシスに働く事も知られている。前述のサイトカインや増殖因子のうちIL-3, EPOはSTAT5と、またEGFはSTAT1やSTAT3に関連することが報告されている。さらに最近STAT5の負の調節因子としてcytokine inducible SH2-protein-1 (CIS1)が見出された。CIS1はSTAT5によって転写誘導され、その後リン酸化されたIL-3受容体やEPO受容体と結合し、STAT5の活性化を阻害することが知られている。そこで我々はまず、脳虚血時に実際にJAK/STAT系の活性化が起こるかどうかをStatのリン酸化抗体を用いて検討した。マウス中大脳動脈永久閉塞モデルを用いて、虚血後経時的にStatのリン酸化の亢進の有無をWestern blottingにて検討した。その結果stat3のリン酸化が虚血後6時間目から虚血巣で著名に亢進する事を認めた。また免疫染色によりリン酸化Stat3陽性細胞はneuronである事を認め、更に免疫電顕によりリン酸化stat3陽性神経細胞はすべて変性細胞である事を認めた。従ってリン酸化stat3は細胞死に関連する可能性を認め報告した(Neurosci Lett, 303:153-156,2001.)。現在我々はSTAT1,3,5やCIS1を組み込んだアデノウイルスベクターを作成し、初代培養神経細胞やグリア細胞にSTATやCISを強制発現させ、低酸素負荷に対する影響を調べようとしている。現在ウイルスベクターのうちSTAT1,3,CIS1,CIS3,Jabの作成と精製を終了し一部のベクターに関しては初代培養での検討を開始している。またラットやマウス脳にウイルスベクターを脳定位的に導入しSTATやCISを強制発現させ、脳虚血障害に影響を与えるかどうか検討するための予備実験を行っている。
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