研究概要 |
Thrombospondin (TSP)-1およびTSP-2は、血管新生の過程において強力な抑制因子である。一方vascular endothelial growth factor (VEGF)やangiopoietinは、血管新生誘導因子として広く研究されている。今までの研究では、野生型p53を導入した場合にp53変異グリオーマ細胞(U251MG、LN319)でTSP-1のmRNAとタンパク質発現は明らかに低下したが、p16欠失細胞(U251MG、U87MG)に野生型p16を導入してもTSP-1の発現は変化しなかった。一方TSP-2は、p53変異細胞にp53を導入してもp16欠失グリオーマ細胞にp16を導入しても発現が亢進した。つまり、TSP-1の発現はp53により増強し、TSP-2はp16およびp53ともに発現誘導因子として作用していると考えられる。またPTENを導入することにより、すべての細胞株でTSP-1の発現は有意に低下することを確認した。プロモーター解析では、野生型p53がTSP-1プロモーターの転写活性を上昇させる結果を得た。p21遺伝子の導入によってTSP-1の発現はまったく変化しなかったが、TSP-2の発現はすべての細胞株で亢進していた。以上の結果から、TSP-1ではp53依存性の発現制御系が存在し、TSP-2はTSP-1とは異なる経路を介して発現が制御されていることが示唆された。現時点では、angiopoietinについてはp16、p53、およびPTENの導入で有意な発現の変化は認められていない。我々はグリオーマにおいてVEGFの発現がp53のみならずp16でも明らかに抑制されることを確認している(CANCER RESEARCH 59:3783-3789,1999)。さらにPTEN導入で明らかにVEGFの発現は抑制された。血管新生は、誘導因子と抑制因子のバランスにより調節されている現象である。血管に富む腫瘍では、このバランスが崩れて誘導因子が抑制因子を凌駕した状態にあると考えられている。悪性神経膠腫では、p16、p53およびPTEN遺伝子の異常が高頻度に生じているが、これが神経膠腫の悪性化に伴う著明な血管新生に関与している可能性は高い。U251MGを用いたdorsal air sac assayでは、野生型のp16またはp53遺伝子をグリオーマ細胞に導入することで、腫瘍血管新生は有意に抑制された。つまり、p16またはp53遺伝子が異常をきたしている悪性神経膠腫に対して、その異常を修復することによってVEGFに代表される血管新生誘導因子が優位な状態をTSP-1やTSP-2などの抑制因子が優位な状態に変化させ得る可能性は高い。TSP-1とTSP-2は、腫瘍増殖、転移ならびに腫瘍血管新生に関与する重要な制御因子として注目されている。腫瘍の増殖進展においては腫瘍型によって相反する作用が報告されているが、血管新生に関しては比較的強力な抑制因子であることは確かである。今後、癌抑制遺伝子と血管新生関連因子の関係がより解明されることによって、血管新生抑制療法が難治性である悪性神経膠腫への有効な治療法となり得るのではないかと考え検討を進めている。
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