研究概要 |
タウ因子は神経細胞に特異的に発現しcdc2-kinase, cdk5, GSK3, MAP kinase, A-kinaseにより燐酸化され、phosphatase 2Aおよび2B(カルシニューリン)により脱燐酸化され細胞骨格の形成に重要な役割を担っている。アルツハイマー病においてはタウ因子の過剰燐酸化反応が神経細胞死の原因の一つとなっていることが明らかとなっており虚血性神経細胞死と死のカスケードが一部共通していることが予測される。また最近では脳梗塞急性期死亡剖検脳において梗塞周辺のいわゆるペナンブラの領域でタウ因子の燐酸化が亢進しているという報告も見られる。 今回我々は、砂ネズミを用いた一過性前脳虚血後の海馬に見られる虚血性神経細胞死の過程におけるタウ因子の燐酸化を検討した。セリン199/202のリン酸化は虚血後細胞死の起こる領域で過剰に亢進し、細胞死の起こらない虚血条件ではその変化が認められなかった。それに対しタウ全体の量は変化なく、セリン396のリン酸化にも変化は見られなかった。 つぎに199番目と202番目のセリン残基を変換し分子生物学的手法で燐酸化フォームと脱燐酸化フォームのcDNAを作成した。この遺伝子にTAT-tagを付け蛋白質発現ベクターに組み込み、大腸菌を用い組み替え蛋白質を作成した。この蛋白質を脳室内投与により海馬内に導入したところ脱燐酸化フォームのタウでは虚血性神経細胞死抑制効果が認められた。これらのことよりセリン199/202の過剰燐酸化は虚血性神経細胞死の一因であると結論できる。 最後に同部位のリン酸化にかかわる酵素について検討した。様々なリン酸化酵素阻害剤を脳室内投与し同部位のリン酸化を検討したところMAPKinase, cdk5,によりリン酸化されていることが明らかとなった。更に脱リン酸化酵素であるカルシニューリンの活性低下も過剰燐酸化を助長しているものと考えられた。
|