<目的>本研究課題の主目的は神経移植治療応用を念頭においた多分化能を有する神経幹細胞(または神経前駆細胞)の細胞生物学的特徴の解析である。具体的には、胎仔脳から分離増殖させた神経幹細胞を目的とするニューロンすなわち、パーキンソン病に対する移植治療のドナーとなるドーパミン細胞への分化およびその生存率を向上させる方法の模索である。その手段として、(1)アポトーシス抑制作用の他に神経幹細胞の分化にも影響を及ぼすことが判明しているcaspase inhibitor、(2)サイトカイン(IL-1、Sonic hedgehog)、(3)神経栄養因子(FGF、BDNF、GDNF)などの薬剤を神経幹細胞に作用させ、ドーパミン細胞への分化、生存を促進するかどうかを主として培養実験で検討した。 <方法>ラット胎仔脳から神経幹細胞をニューロスフェアー法により分離培養し、同細胞に対して上述した薬剤を様々な濃度で作用させた。評価方法としてMAP-2、β-Tubulinなどのニューロンマーカーとドーパミン細胞のマーカーであるTyrosine hydroxylase (TH)の免疫染色を行い、陽性細胞を算出した。 <結果および結論>Caspase inhibitorは500microMでニューロンマーカ陽性細胞やTH陽性ドーパミン細胞への分化、生存率を有意に増加させた。しかし、caspase inhibitorを幹細胞移植治療に応用するにあたり、処置のタイミング、至適濃度等を移植実験で検討する必要がある。一方、分化誘導実験において検討したサイトカインの中ではSonic hedgehogが神経幹細胞から最も多くのTH陽性細胞を産出させることができた。しかし、dopamine transporter陽性細胞や培養液中に放出されるドーパミン量は少なく、TH陽性細胞には相当数のセロトニン細胞が含まれていると考えられた。今後、ドーパミン細胞のみを増やす方策について検討しなければならない。
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