脳塞栓発症直後の超急性期にその血栓を溶解することは治療上の第一選択である。すなわち、発症後3時間以内の血栓溶解剤の動注又は静注は脳神経系の壊死回避の極めて重要な問題である。 本研究は、脳血栓溶解法として血栓溶解剤投与、超音波照射、含気製剤投与の三者の複合作用による溶解加速法を実現し、これを実験的に確認することを目的としている。 本年度は次の実績を積み、複合的血栓溶解法確立の基礎を培った。 (1) 含気流体に対する血流量測定法の精度検討 血流再開通を監視するために超音波トランジットタイム血流計を用いることとしたが、原理的に含気製剤による音響インピーダンスの不均一流体に対する精度は補償されていなかった。ここでは濃度の異なる微小含気流体に対して、トランジットタイム血流計は極めて高い雑音性波形を呈するが、その平均値波形は充分な測定精度を有し、実験に供しうることを確認した。 (2) 塞栓モデル形成による血栓の性質の検討 塞栓モデルとして塩化第二鉄家兎股動脈塞栓と、自家血ラット脳塞栓の2種類で検討した。 a. 家兎股動脈塩化第二鉄塞栓モデル 塩化第2鉄の濃度を変えて、経血管壁に塞栓形成をした。家兎の体重、血流量、血管径によって塞栓形成までの時間が左右され、15〜25%濃度で、10〜40分で塞栓を形成した。この血栓は病理学的に極めて血小板豊富なタイプで、使用血栓溶解剤の選択条件となった。 b. ラット自家血脳塞栓モデル 糸状の自家血血栓を作成し、カテーテル的に中大脳動脈根幹部に留置し脳血栓症を作った。覚醒下神経学的評価後、再麻酔下で血栓溶解剤の静注と、経頭蓋的超音波インターミッテント照射を行った(500KHz、連続波、0.83W/cm^2)。24時間後に摘出脳の虚血容積を三次元的に評価し、超音波併用法の有用性を確認した。 三者複合作用を評価する基盤形成に成功した。
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