廃用症候群はリハビリテーション医療で大きな比重を占める重要な問題である。 多くの病態が含まれるが、骨萎縮もそのひとつで、長期臥床による骨への負荷の減少が骨のカルシウムの減少をもたらすと考えられている。平成13年度は、重力負荷を除去した状態で起きる病態変化について、ラット骨芽細胞を用いたin vitroシミュレーション実験で確認した。その結果、代表的な骨特有のマトリックスタンパクであるオステオカルシンや、骨形成マーカーでもあるアルカリフォスファターゼなどの発現が、重力負荷の軽減によって抑制されることがわかった。平成14年度では、ラット大腿骨から採取した骨芽細胞を用いて、高重力を負荷する実験を行った。その結果、10Gから30Gの適当な大きさの負荷を24時間かけることによって、オステオカルシンやアルカリフォスファターゼの発現が上昇すること、そして過大な負荷量は反対に逆効果(骨形成マーカーの抑制)をもたらすことも確認された。また骨特有のオステオカルシン発現の変化が、ビタミンDレセプターやグルココルチコイドレセプターなど骨への分化を支配する遺伝子転写因子の発現と同調して起きることも発見し、力学的負荷による骨芽細胞での変化は、ホルモンなどの全身性因子の変化と深く関わっていることもわかった。 本研究では、骨形成を有意に促進する閾値となる有効最小重力負荷量が決定され、最終的に、長期臥床患者の下肢の長軸方向へ適切な負荷をかけることにより、長期臥床患者の下肢の骨萎縮防止あるいは骨代謝改善に有効な力学負荷量が算出される。従来の廃用性骨萎縮に対する治療は薬物によるものが主体であった。しかし本研究の成果によって、薬物に頼らずに力学的環境をコントロールすることによって骨萎縮を防止できる可能性を実際に示すことができた。
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