研究概要 |
最近,リンパ球系におけるT細胞レセプターを介したシグナル伝達系の重要な転写調節因子であるNFAT(Nuclear factor of activated T cells)familyのうちのNFATp(NFATc2,NFAT1)がadultマウスにおける軟骨形成阻害因子であることがノックアウトマウスを用いた実験で証明され,さらにヒト間葉系幹細胞の軟骨への分化・増殖の際にも抑制因子として作用していることが明らかにされた(Ranger AM, et al.:J Exp Med191:9-21,2000)ことから,ヒト軟骨肉腫細胞においてもNFATp遺伝子の異常がその発症・進展に関与している可能性が推測される。そこでまず我々はヒト軟骨肉腫におけるNFATp遺伝子発現の有無を調べる目的で,我々の施設で凍結保存してあるヒト軟骨肉腫10例の腫瘍組織についてNFATpの各エクソン配列を増幅するPCRプライマーを作成しRT-PCR法により,その発現の有無をスクリーニングした。その結果10例全例でNFATpの遺伝子発現が認められた。さらに京都大学整形外科の青山らもヒト軟骨肉腫26例についてNFATpの遺伝子変異を検索し,4箇所7例において塩基置換を認めたもののいずれもsilent mutationあるいは多型性変異と考えられ,本遺伝子の軟骨肉腫における関与は明らかでなかったと報告していることから,ヒト軟骨肉腫においてNFATpは遺伝子治療の標的分子としては適当ではないと判断した。今後の研究の方向としては,我々の教室の妻木らがすでにクローニングした軟骨細胞に特異的に発現する11型コラーゲンα2遺伝子(Col11α2)のプロモーター領域とHerpes Simplex Virus Tymidine Kinase(HSV-TK)を挿入したプラスミドベクターを作成し,これを用いた軟骨肉腫における遺伝子治療モデルの確立を目指したい。
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