本研究の目的は、(1)Ewing肉腫やPNETの母地組織に融合がん遺伝子を特異的に発現させて、肉腫のモデルマウスを分離すること、(2)融合がん遺伝子の産物である融合転写因子が標的とする遺伝子を同定することである。我々は、Ewing肉腫癌遺伝子(EWS-FLI)を導入したトランスジェニック(Tg)マウスを2系統、分離した。これらのTgマウスは生殖能力をもち、継代・維持が可能であった。次に、これらのTgマウスとCre酵素を神経堤で発現するTgマウスを交配させ、DNA組み換えを誘発した。しかし、DNA組み換えを起こしたマウスが充分な頭数得られず、腫瘍の発生の有無を判定することができなかった。今後、別の系統のTgマウスを交配させて、DNA組み換えを起こしたマウスの誕生する頻度を上げ、検討する必要がある。一方で、我々はEwing肉腫の融合遺伝子を導入した培養細胞株において、発現の挙動が変わる複数の遺伝子を見出した。これらの遺伝子は正常型のETS遺伝子に応答せず、融合がん遺伝子に特異的に反応した。そのうち、腫瘍の悪性度に関連した細胞外マトリックス成分のテネシンと転写制御因子Id2に注目して、標的遺伝子としての生物学的意義を明らかにした(Genes Chromosome & Cancer 2003;Oncogene 2002)。さらに、融合がん遺伝子がc-mycの発現を誘導すること、およびTGFβ-2やSmad3の発現を阻害することを見出した。これらの増殖関連の遺伝子は腫瘍の盛んな増殖能力と関係するものと推定される。肉腫の発生機序を明らかにするために、腫瘍化と標的遺伝子との関係をさらに、解析する必要がある。
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