研究概要 |
臨床上、変性椎間板が腰痛・下肢痛を惹起することが示されているが、髓核変性と疼痛の関係についての詳細な基礎的研究はなく、分子生物学的に椎間板変性が修復できれば疼痛発現を制御し得る可能性がある。慢性機械的圧迫により作成した変性髄核がラット腰髄神経根に作用した場合、正常髄核に比し、患側下肢により強い、長期の痛覚過敏が発現することを報告した。4、8週間の慢性機械的圧迫の加わった椎間板では髄核のpH低下がみられた。これらの変性髄核を左側L4、L5脊髄神経根上へ留置することでより強い痛覚過敏が出現した。しかし、12週圧迫を受けた髄核では正常髄核とpHに差はなく、痛覚過敏発現にも有意差はなかった。Osteogenic protein-1(OP-1)は椎間板組織では細胞外基質であるプロテオグリカン、コラーゲンの量を増大させること、変形性関節症では軟骨の修復過程に関与することが報告されている。ヒトOP-1発現遺伝子であるpW24をラット尾椎髄核細胞に導入した。導入後,geneticin (G418)を含む選択培地にて1週間培養した後,遺伝子導入細胞を回収した。導入した髄核を椎間板内に注入することで尾椎の機械的圧迫にても髄核内のプロテオグリカン、コラーゲン、DNA量の変化は少なかった。これらの結果はOP-1遺伝子導入により椎間板の変性が制御可能であることを示唆している。また、OP-1が髄核組織に作用すればpH低下のような椎間板の変性過程を制御し、痛覚過敏を減少させ得ると考えられた。今後はOP-1そのものを注入した場合との比較や変性髄核による痛覚過敏増強因子の検討を行う予定である。
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