脊椎・脊髄手術々中に、運動機能をモニターする方法として、経頭蓋的に大脳運動野を刺激して四肢の骨格筋から誘発電位を記録する方法(BRE-MSEP)は、脊髄の運動関連索路だけでなく脊髄前角細胞の活動性をも反映するという利点から普及したモニタリング法である。これまでの研究によりBRE-MSEPは虚血や圧迫性の脊髄障害に対して、大脳運動野あるいは脊髄刺激により脊髄から記録される伝導性の脊髄誘発電位に比較して鋭敏に反応して電位振幅の減ずることが明らかにされている。しかし、我々の研究結果から脊髄圧迫あるいは虚血によるBRE-MSEP電位の消失は必ずしも運動機能の消失を意味しないことが示されている(Nakagawa Y. 2002)。また、術中には脊髄実質や脊髄神経根が選択的に障害される可能性がある。そのような障害に対してBRE-MSEPが如何なる変化を示すかについて昨年度の実験結果を確認しつつ、脊髄前角、運動関連索路、および脊髄神経根の選択的障害に対するBRE-MSEPの反応性を定量的かつ定性的に観察した。記録筋を支配する脊髄前角の1髄節内の限局した障害および単一の脊髄神経根の障害では、BRE-MSEPの波形に有意な変化は認められなかったが、記録筋を支配する髄節より中枢の運動関連索路の障害に対しては電位振幅は大きく減ずることが確認された。このように、BRE-MSEPは支配髄節より中枢の運動関連索路の障害は表現できるが、髄節障害を的確に表現できない場合があることが明らかとなった。従って、今回の一連の研究からBRE-MSEPのみをを指標として、脊髄運動関連機能の術中モニタリングを行うことはfalse negativeあるいはfalse positive症例を作る危険性があることが明らかとなった。常に運動関連あるいは感覚関連索路の活動性を同時にモニターすることの重要性が確認された。
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