大脳運動領野電気刺激により四肢末梢筋から誘発される複合筋活動電位(CMAP)は脊髄の運動機能の術中モニタリングの手段として広く用いられるようになっている。しかしながら、我々はこの方法を臨床例に応用してモニターを行い、脊髄の前角細胞の限局した障害と脊髄神経根の単一障害を感知し得なかった症例を経験した。この電位の、限局された脊髄ならびに神経根障害を反映する能力を検討するためにネコをもちいた実験的研究を行った。脊髄前角細胞の障害は脊髄に刺入した微小電極を介して高圧電流を流して定量的に作成し、脊髄神経根障害は選択的に切断して作成した。 経頭蓋的に運動野を電気刺激してCMAPを下肢各筋すなわち、大腿四頭筋、下腿三頭筋から記録し、脊髄の灰白質前角と後側索後方に直径約2mmの障害を作成し、さらにL7とS1神経根を選択的に順次切断してその影響を観察した。 脊髄後側索後部の索路の障害は著明なCMAPの振幅減少を起こしたが、限局した灰白質前角あるいは単一神経根の障害は下肢CMAPに定常的な影響を及ぼさなかった。しかしながら、L7とS1の二本の神経根を切断すると、下腿三頭筋から記録されるCMAPの振幅は著明に減少した。この所見からCMAPは脊髄の限局した灰白質障害、脊髄神経根障害を的確に反映しうるものではないと結論した。 この実験結果から、CMAPのみを用いた脊髄機能モニタリングの限界を示し、脊髄内索路由来の伝導性電位との同時観察を行うmultimodality monitoring法を用いることの重要性を論じた。
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