各種麻酔薬や軽度低体温には、脳保護効果があるとされている。昨今の研究では、その機序は代謝の抑制ではなく、他の何らかの機序が働いていると示唆されているが、その詳細は依然確定していない。本研究では胎仔ラット初代神経細胞培養系を用い、興奮性アミノ酸の代表であるグルタミン酸負荷による神経毒性に対するバルビタール軽度低体温の保護効果について検討した。妊娠ラットから胎生14日程度の胎仔を取り出した。実体顕微鏡下に大脳半球を摘出し神経細胞を培養した6培養7日後に、グルタミン酸50μMを30分負荷した。前年度の研究では、臨床濃度のペントバルビタールならびに33、29度の軽度低体温は細胞傷害率を有意に低下させた。さらに蛍光顕微鏡による形態学的解析では軽度低体温ではアポトーシス細胞の割合を有意に低下させた。本年度は、その機序について活性酸素産生とカスペース活性の2点から検討した。細胞内活性酸素量は細胞内活性酸素の特異的蛍光指示薬であるC-DCDHF-DAを細胞に添加し測定した。カスペース活性はカスペース3の特異的蛍光指示薬で染色し測定した。グルタミン酸負荷により活性酸素産生とカスペース3活性はそれぞれ57%と44%の増加を認めたが、保護効果を認めた濃度のペントバルビタールと33、29度の低体温ではこれらの増加を抑制できなかった。したがって、グルタミン酸負荷による神経毒性に対するバルビタールや軽度低体温の保護効果は活性酸素産生抑制やカスペース活性抑制から説明できないと推測された。
|