ウサギ腹部大動脈内で15分間肺動脈バルーンを拡張し脊髄一過性虚血モデルを作成後高気圧酸素治療群と非治療群の2群にわけ、7日後までTalrov scoreにて神経学的評価をおこなった。治療群は100%酸素にて絶対3気圧の高気圧酸素療法を1時間行った。虚血後8時間、1日、2日と7日に安楽死させ脊髄を取り出し、パラフィン切片および凍結切片を作製しHE染色、免疫染色を施行した。 神経学的には非治療群では経時的に四肢麻痺が進行し、組織学上脊髄前角細胞数の減少を認めアポトーシスを示唆する所見を得た。これは虚血後24時間でD4-GDIの免疫染色の陽性像をもってアポトーシスが関与しているものと推察した。しかし虚血後早期に高気圧酸素療法を施行した群では神経学的兆候や組織学的な改善が得られた。この原因を検索すべく単純虚血群で免疫染色による解析を行った結果NMDA受容体の過剰反応に起因すると考えられるnNOSの活性化とその下位シグナルにあたると考えられる3-nitrotyrosineの発現が虚血後8時間で認められ、細胞障害ひいては細胞死を誘導する可能性を結論した。 これに対して虚血後早期に高気圧酸素療法を施行した群ではnNOSの活性化とその下位シグナルにあたると考えられる3-nitrotyrosineの発現が抑制され、これが高気圧酸素療法による神経細胞保護機序の一因であると結論した。 次にsurvival signalの一つとして神経栄養因子であるGDNF (glial cell line-derived neurotrophic factor)を想定し両群で発現様式の違いについて同様に免疫学的な検索を行った。この結果GDNFの発現様式は治療群・非治療群で差がなく、若干の発現強度の差は見られたものの高気圧酸素療法の機序十分に説明するには至らないと結論した。
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