本研究において麻酔開胸犬を使用し、1)電気的迷走神経刺激(vagal nerve stimulation/VNS)がDFT(除細動閾値)を変化させるか否かを、またその作用は刺激の経路による異なるかどうかを検討した。右室流出路の高頻度刺激により心室細動を誘発し、10秒後のDFTを計測。このDFTは細動誘発/除細動のsequenceを通電パルスの電圧値をおよそ10%ずつ漸増あるいは漸減しながら反復することによって測定した。ベースラインのDFTは3.1±0.9Jであり、右あるいは左のVNS単独(10mA)ではそれぞれ2.1±0.9Jおよび2.2±0.8Jと有意に低下した。この低下は両側同時のVNSでは消失し、中枢側の離断によって単独刺激と同等の効果が得られた。急性の両側VNSは中枢側でのinhibitionが生じている可能性が推測される。2)アセチルコリン感受性K+チャネルが心室筋にはほとんど存在しないことから、もし迷走神経刺激が心室筋の電気生理学的特性を変化させるとしても、抑制性G蛋白を経由したβ交感神経受容体への拮抗作用(accentuated antagonism)を介したものであると予想される。このことを確認するために、高用量propranolol投与(0.5mg/kg+0.01mg/kg/min)の有無により迷走神経刺激のDFTへの作用が異なるか否かを検討し、同薬剤にてVNSのDFTへの影響が完全に消失することを確認した。3)VNSのDFTへの作用の時間依存性(2〜8秒)、電流量依存性(1〜10mA)を検討し、DFTの有意な減少は10mAで少なくとも8sec間のVNSを要し、逆に10secの刺激では少なくとも6mA以上の電流値が必要であることがわかった。
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