臨床研究:手術患者を対象に麻酔薬が手術侵襲に対する下垂体ホルモン(ACTH及びバソプレッシン)反応に及ぼす影響を検討した結果、イソフルレン、セボフルレンはこの反応を抑制しないこと、亜酸化窒素は反応を強く抑制することを確認した。さらにベンゾジアゼピンが内分泌ストレス反応に及ぼす影響を検討し、ベンゾジアゼピンであるミダゾラムはセボフルランと併用しても下垂体ホルモン反応には影響しないことが明らかとなった。以上のことから揮発性麻酔薬にはストレス反応抑制効果がないが、亜酸化窒素は強い作用をもつこと、ストレス反応はGABAAの作用を増強しても抑制されないことが明らかとなった。 動物実験:亜酸化窒素によるストレス反応抑制効果に脳内オピオイド系が関与するという仮説を検証するために、ウサギの第3脳室から脳脊髄液を持続的に採取し、イソフルレン、ハロセン、亜酸化窒素の投与が脳脊髄液内のメチオニンエンケファリン、ロイシンエンケファリン濃度に与える影響を検討したが、これらのオピオイド濃度は変化しなかった。次にラット開腹刺激モデルを作成した。このモデルではイソフルラン麻酔下で開腹刺激によって、血中ACTH及びカテコラミン濃度が著明に増大すること、亜酸化窒素はその反応を約半分に減少することを確認した。開腹刺激後に脳を取り出し、c-Fos蛋白の発現を免疫組織化学法で検索した結果、第3脳室周囲核群特に室傍核と側頭葉から頭頂葉にかけての大脳皮質にc-Fos蛋白が発現することが明らかとなったが、その発現量については麻酔薬による違いは今のところ明確にはなっていない。現在このモデルを用いてc-Fosの発現部位とオピオイドニューロンの局在との関係を検討中であるが、さらに検討を重ねることで亜酸化窒素によるストレス反応抑制効果に内因性オピオイドが関与するか否かが明らかになることが期待される。
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