研究概要 |
Heme Oxygenase-1(HO-1)は、ヘモグロビン、ミオグロビンなどヘム蛋白の必須構成要素であるヘム(鉄-プロトポルフィリン体)分解の律速酵素であると同時に、その遺伝子解析により分子量32kdのHSP32でもあることが明らかとなっている。また、HO-1は基質であるヘムのみならず熱刺激、重金属、サイトカイン、紫外線照射などの酸化的ストレスによって細胞内に誘導され,細胞保護的に働くことが報告されている。また、その細胞保護効果にはには抗アポトーシス作用が関与していることが報告されている。そこで、我々は1昨年、ラット虚血性急性腎不全(Ischemic Acute Renal Failure : IARF)モデルにおいてHO-1が腎に誘導され、HO-1を抑制するとIARFが悪化することから、HO-1が腎細胞保護的役割を果たすことを示唆した。また、昨年、重金属であるSnCl_2が、IARFの標的細胞である尿細管細胞特異的にHO-1を誘導することを見出し、ラットIARFモデルに対し、虚血前SnCl_2を投与しHO-1誘導が虚血性腎傷害に及ぼす影響を検討した。その結果、SnCl_2投与群では、虚血再灌流後の血清BUN、Creatinineの上昇が対照群と比較して有意に抑制され、腎組織傷害も軽度であった。また、このとき、SnCl_2投与群では対照群に比較してHO-1の著明な発現が腎尿細管細胞特異的に認められた。さらに、HO-1を抑制するとSnCl_2の腎保護効果が消失した。以上より、腎特異的なHO-1誘導はIARFの予防や腎傷害の軽減に有用であると考えられた。実際の臨床では、IARFはショック蘇生後にしばしば発生する。そこで、本年度はラット出血性ショックモデルを作成して、腎におけるHO-1の発現を検討した。その結果、IARFモデルと同様にHO-1が尿細管細胞に著明に誘導されることが明らかとなった。しかし、このモデルでは明らかな腎障害が認められなかったことから、HO-1は抗アポトーシス作用を介して、腎保護的に働くことが示唆された。
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