研究概要 |
ベンゾジアゼピン受容体遮断薬であるフルマゼニルが、肝性脳症の改善に有効であるという報告がこれまでにある。また、ベンゾジアゼピン受容体刺激が、中枢モノアミン神経活動に影響をおよぼすことも知られている。中枢モノアミン神経活動は動物の行動に深く関与するので、中枢モノアミンとアミノ酸代謝におよぼすフルマゼニルの効果を、ラット急性肝不全モデルを用いて検討した。 ラットの左門脈を90分間クリップで閉塞して、肝臓に虚血を負荷した。フルマゼニルは血流再開0、6、24時間後に、3回それぞれ1mg/kgを腹腔内に投与した。マイクロダイアリシスのプローブを右線条体に挿入し、神経伝達物質としてのアミノ酸、モノアミン、およびその代謝物の濃度変化を検討した。実験動物群として偽手術群、肝虚血群、肝虚血フルマゼニル処置群の3群を用いた。 肝虚血群と肝虚血フルマゼニル処置群の動物には、血液検査と組織検査の結果、虚血負荷24時間後に重度の障害が認められた。線条体での細胞外液中ドパミン濃度は、急性肝不全によって変化しなかったが、その代謝物である3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸濃度は、肝虚血群で偽手術群の39%に低下した。フルマゼニル処置によりその低下は完全に回復した。セロトニンとその代謝物に関しては、3群間で差がなかった。肝虚血群のグルタミン酸濃度は、偽手術群の42%であった。フルマゼニル処置によるグルタミン酸濃度の明らかな変化は、認められなかった。肝虚血24時間後、動物の自発運動が低下した。フルマゼニル投与により、自発運動の改善が認められた。 ドパミン代謝物の変化は、ドパミン神経代謝を反映しているので、急性肝不全によってドパミン神経代謝が抑制されたと考えられる。フルマゼニルによるこの回復は、この薬物が肝性脳症を改善する一要因であると考えられる。
|