重症患者における日和見感染症とこれに続発する敗血症・敗血症性ショックの合併は患者予後に大きく寄与する重要病態である。集中治療の臨床現場で敗血症の原因菌として最も重要視される緑膿菌感染症に着目し、その外毒素分泌システムの制御を介した治療介入の検討を動物モデルを用いて行った。緑膿菌外毒素分泌システムの構成蛋白であるPcrVに対する多クローン性特異的抗体を、組み替えPcrV蛋白を用いたワクチン接種により作成した。抽出した抗PcrV抗体を、毒性の強い緑膿菌株PA103を肺胞内投与することにより作成したマウス及びウサギ緑膿菌性肺炎・続発性敗血症モデルに治療的に投与した。肺傷害及び敗血症病態は非特異的コントロール抗体の投与では変化がなかったが、抗PcrV抗体の投与によって有意に改善した。さらに抗PcrV抗体の投与によってのみ敗血症性ショックの合併が防止でき、生存率が有意に改善した。 以上より、極めて臨床病態に酷似した緑膿菌性肺炎と続発性敗血症・敗血症性ショックモデルにおいて、抗PcrV抗体の投与が敗血症症候群の病態を有意に緩和し、救命的治療的効果があることが判明した。次に抗PcrV-F(ab')_2抗体を作成し、同様の実験モデルにて有効性を確認したところ、抗PcrV-F(ab')_2抗体の治療的投与は完全型抗PcrV抗体とほぼ同程度の治療効果を示し、抗PcrV抗体の作用機序としてFc部分を介さない中和作用が主因であることが明らかになった。以上の結果から、緑膿菌の毒素分泌システムに対する抗体療法による治療介入が、緑膿菌感染症の予後を改善する戦略になりうるとの実験的傍証が得られた。
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