研究概要 |
平成14年度までに、tetracaine、lidocaine、bupibacaine、dibucaine、ropivacaineその他数種の局所麻酔薬をラット脊椎麻酔モデルに投与し、形態学的に検討を行うことで各局麻薬の神経毒性効果を評価した。その結果、組織毒性はdibucaine、lidocaineで高く、ropivacaineで最も低いことが判った(Anesthesiology A966,A855)。この毒性の高さの順位づけは臨床研究で報告されている各局麻薬を使用した脊椎麻酔後の感覚障害を主体とした神経障害の発症率の高さとも良く一致していた。また、毒性の高さに関わらず、毒性病変の主病変部位は共通して脊髄後根の軸索であることも確かめられた。そのため平成14年度から、神経節から発芽させた後根神経の軸索輸送に局麻が与える影響を検討した。はじめに臨床でもその安全性について最も議論されているlidocaineについて検討した(Anesth Analg 2001;92:287)。その結果、軸索輸送は10mM以下のリドカインで抑制され、10mMで停止し、50mM以上では数分内に軸索細胞膜が破壊されることがわかった。これらのリドカイン効果のうち、Ca^<2+>-freeの細胞外液とCa^<2+> calmodulin Kinase II(CAM kinase II) inhibitor(KN-62)により軸索輸送の抑制は減弱したが、膜の破壊は阻止できなかった。しかし膜保護剤であるLysophosphatidic acidでは軸索輸送の抑制作用とともに、膜破壊も抑制した。以上の結果から以下のことが考察された。 1.低濃度lidocaineは神経細胞膜に穴をあけ、細胞毒であるCa^2 ionを流入させて軸索輸送を抑制する 2.さらに高濃度lidocaineは神経細胞膜そのものを破壊する。この効果はLysophosphatidic acidで抑制される可能性が示された。臨床でのlidocaine神経毒性の阻止作用が期待できるかもしれない。 以上の内容は2004年、第81回、日本生理学会(6/2-2/4札幌)で発表予定である。
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