研究概要 |
Spreading deprssionは、繰り返し起こる神経細胞膜の脱分極である。神経細胞の脱分極は細胞内のイオン環境を大きく変化させるものであり、このイオン環境の変化がミトコンドリアの活動を変化させると考えられる。近年、ミトコンドリアはアポトーシスを指令する細胞内小器官であることが明らかになりつつあり、神経細胞死をコントロールする機序を解明する上で、ミトコンドリアの役割を検討する必要がある。本研究では虚血の伴うミトコンドリア膜電位の変化とその後に起こる神経細胞死の関係を検討した。 35mmディッシュに培養した初代培養海馬神経細胞を用いた。虚血に近い条件を作るため、無酸素無糖培養(OGD)を一定時間行った。無酸素状態を作るため、酸素センサーを用いて酸素が検知されるとサーボコントロールにて95%窒素と5%二酸化炭素の混合ガスを培養器内へ噴出させる専用の培養器を開発した。この培養器内にて30,60,90分間培養し、OGD直後、3時間後、24時間後のミトコンドリア膜電位、ATP含有量、細胞死の有無、アポトーシスの発生の有無を検討した。ミトコンドリア膜電位は電位依存性色素JC-1を用い、共焦点顕微鏡あるいは、蛍光顕微鏡にて観察し、評価した。ATP含有量はluciferin-luciferase反応を用いた。細胞死の検討はCalceinおよびEthidiumを、アポトーシスの検討にはTUNEL法を用いた。その結果、30分のOGDでは、再酸素化後、膜電位は過分極し、90分のOGDでは、再酸素化しても膜電位は過分極していた。60分OGDでは、過分極および、脱分極の両者が見られた。30分OGDの直後では、細胞死はほとんど見られなかったが、24時間後にTUNEL陽性細胞が見られた。90分OGDでは、多くの細胞が直後に細胞死を起こしていた。24時間後にはTUNEL陽性細胞も見られた。以上の結果より、短いOGDでは、ミトコンドリア膜電位は過分極を示し、その後、そのような細胞はアポトーシスを起こし、長いOGDでは、膜電位は脱分極し、ネクローシスに至ることが示唆された。
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