平成13年度までに我々は、ファイブロネクチンの脳虚血に対する作用をコンディショナルノックアウトマウスを使用した局所脳虚血モデルにて検索してきた。結果としてファイブロネクチンが脳虚血時に傷害部分の拡大に対して抑制的に働き、またTUNEL・caspase3といったアポトーシスに関連する物質を調査したところ、ファイブロネクチンによる脳虚血への作用は、抗アポトーシスとしての影響が原因であることが判明した。平成14年度からは、ファイブロネクチンの抗アポトーシス作用が具体的にどの経路・段階に関わるかを検索する手段として、抗アポトーシス作用を有する薬剤であるサイクロスポリンAを使用し、マウスの脳虚血に対する作用を調査した。しかしサイクロスポリンAは血液脳関門を通過しにくいため、今回血液脳関門の働きを有するp-glycoproteinであるmdrlaという物質が欠如したノックアウトマウスを使用した。結果として、サイクロスポリンAによる抗虚血作用がそのノックアウトマウスの局所脳虚血時にて認められた。一方、サイクロスポリンAによる脳虚血への作用は、その用量によっては神経細胞傷害を増悪させることも判明した。また局所脳虚血時の正常マウスとmdrlaノックアウトマウスの比較検討の結果、血液脳関門の存在が脳虚血に対して影響していることが強く示唆された。以上の結果を踏まえて、現在は血液脳関門へ影響与える物質、脳保護として働く物質を組み合わせた脳虚血実験を展開している。
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