われわれはすでに、ヒトの慢性脳血流低下患者のモデルとなりうるラット慢性脳低灌流モデルにおいて、人工呼吸中の過換気による低二酸化炭素血症により、脳線条体が特異的に傷害を受けることを報告した。今回、この脳傷害にはグルタミン酸受容体サブタイプの一つである、NMDA受容体の関与があるかどうかを、NMIDA受容体拮抗薬ケタミンを用いて調べた。方法)ウイスターラットを用いて、ハロタン麻酔下に両総頚動脈結紮を行い、脳慢性低灌流モデルを作成する。結紮14日後、このラットをハロタン麻酔下に気管内挿管し、麻酔濃度一定となったところで(亜酸化窒素50%、酸素50%、ハロタン1MAC)以下の3群に分けた。(1)慢性低灌流モデルラットに生理的食塩水を腹腔内投与の後、低二酸化炭素血症下(PaCO_2:25-30mmHg)で2時間人工換気する。(2)1群と同様であるが、生食の代わりにケタミン10mg/kgを腹腔内投与した。(3)1群と同様であるが、生食の代わりにケタミン20mg/kgを腹腔内投与した。人工呼吸14日後に脳スライスを作成し、クリューバー・バレラ染色、MAP2とGFAP(glial fibrillary acidic protein)の免疫染色を行い、線条体の傷害を観察した。結果)クリューバー・バレラ染色では、ケタミンの濃度依存性にスコアーの改善が見られた。MAP2の破壊はケタミンにより有意に抑制され、GFAPの増加もケタミンにより有意に減少した。考察)慢性脳低灌流モデルおいて、低二酸化炭素血症による線条体の傷害は、ケタミンによって有意に抑制された。この実験結果は、高齢者など動脈硬化の進行により脳血流が慢性に低下している患者において、人工呼吸中にケタミンを併用することの有用性を示唆している。
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