ウシ脊髄より内因性疼痛制御物質として見出されたspinorphinは、痛み・炎症の制御機構に関与していることが分かってきた。最近、マウスの肢足蹠皮下に内因性発痛物質ブラジキニン(BK)と本物質を同時投与し、発痛消失率をマウスの屈筋応答で行動薬理学的に評価する鎮痛試験が行ない、spinorphinがブラジキニンによる発痛を生理的な低濃度で有意に抑制することが明らかにされた。その活性発現のメカニズムとして、1.内因性BKアンタゴニストの可能性、2.Spinorphin受容体の存在、3.エンケファリン代謝酵素阻害の関与などが考えられた。本研究は、spinorphinが生体の複雑な疼痛制御機構に分子レベルでどのように関与しているのか解明することを目的とした。本年度、B_2レセプターを発現している膜画分(200μg)に[^3H]BK(4nM)とspinorphin(0.4-400μM)を4℃、30分反応させた結果、既存のBKアンタゴニストが[^3H]BKのレセプターへの結合を有意に阻害してた。しかし、本物質はBKのレセプターに殆ど影響を示さなかった。以上のことから本物質がBKに対するアンタゴニスト性を持たないことが示唆された。Spinorphin受容体の探索は、[^3H]spinorphinを駆使してシナプス膜画分に特異的に結合する蛋白があるか検討している。エンケファリン代謝酵素阻害の関与は、本物質の薬理試験により、エンケファリン代謝dipeptidylpeptidase III(DPP III)が痛み等の活性に関与している可能性が考えられた。現在、サル脳膜表層に存在しているDpp IIIを4段階カラム操作で精製することに成功した、モノクローナル抗体を作製している。将来、本抗体を駆使して本物質とDPP IIIの生体内の動態を調べ、痛みの作用にどのように関与しているか明らかにすることを考えている。
|