VHL癌抑制遺伝子産物であるpVHLはユビキチンリガーゼとして細胞内タンパク分解系で作用するが、上皮細胞の細胞極性の制御に関与するシグナル伝達タンパクであるaPKCの分解制御に関わることが本研究において明らかとなった。ヒト腎由来細胞株を用いたin vivo ubiquitination assayにより、PKCλがpVHL依存的にユビキチン化されプロテアソームで分解されることが明らかになった。さらに野生型PKCλは血清刺激により誘導されるリン酸化をともなう活性型への変化により、ユビキチン化が強く促進された。この時、PKCλのユビキチン化にはPKCλの調節ドメインの存在が必須であり、直接リン酸化を受けるキナーゼドメイン単独ではユビキチン化しなかった。これらの結果は、pVHLが非活性型とは分子の構造の異なる活性型のaPKCを特異的に認識しユビキチン化することでプロテアソームにより分解するという、これまで不明であったaPKCのdown regulation機構を初めて明らかにするものであった。またpVHL中のaPKC、elonginの各結合領域のいずれを欠失させてもユビキチン化活性が失われること、elongin結合領域を欠失させた変異型pVHLの発現が野生型pVHLのもつユビキチン化活性をdcminant negativeに阻害することから、これらの領域が機能上不可欠であることが証明された。さらにpVHLの機能領域に点突然変異を導入した変異体pVHL発現細胞株を用いたマイクロアレイ解析によりTGFBI等複数の遺伝子に発現変動が認められた。 従来より言われてきたHIFを介したVEGFの高発現による血管新生の促進だけでは初期の癌化のメカニズムは説明できなかったが、本研究により、aPKCのVHLによる分解制御の乱れが、腎癌における初期の細胞癌化の過程に関与している可能性が示唆された。
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