昨年度の研究において、膀胱癌症例における根治的膀胱前立腺摘除で得られた前立腺組織における浸潤細胞がT cellおよびマクロファージであることを確認した。この結果に基づき、これの細胞から分泌されるサイトカインが慢性前立腺の症状は出現に関与しているのではないかとの仮説を立てた。その上で、慢性前立腺炎に日常的に使用され、症状の軽減効果がある程度認められている抗菌剤が、サイトカインの分泌抑制に作用している可能性を考えた。実際、呼吸器疾患では抗菌薬によるサイトカイン抑制が確認されていることも、今回の検討の背景にある。ヒト前立腺癌培養細胞であるPC3は、IL-6、TNF-alpha、IL-8などを分泌しているが、キノロン系抗菌薬(ガチフロキサシン)がこれらの抑制に関与しているかを検討した。ガチフロキサシンの0、2.0、4.0、8.0 micro-g/mlの濃度でPC3細胞を処理したところ、PC3細胞におけるIL-8の産生は濃度依存性に低下した(0:8.97ng/ml、2micro-g/ml:8.80ng/ml、4micro-g/ml:8.19ng/ml、16micro-g/ml:7.2ng/ml)。ガチフロキサシン16micro-g/mlの濃度は明らかにIL-8の産生を抑制した。健康成人が常用量のガチフロキサシンを服用した場合の前立腺組織内濃度は2-4micro-g/ml/gram proteinとされているので、IL-8の産生抑制にはやや高濃度が必要であったことになる。しかし、キノロン系抗菌薬にこのようなサイトカイン抑制作用が前立腺(癌)細胞でも認められたことは、臨床的ににも興味深く、慢性前立腺に対する抗菌薬(特にキノロン系)の効果が、抗菌薬の効果の他にサイトカイン抑制による可能性が示唆された。
|