研究概要 |
本年度の研究実施計画に基づき、前立腺における炎症惹起のメカニズムと抗菌薬がもたらす抗炎症作用について検討した。感染モデルとして、ヒト前立腺癌培養細胞である、PC-3細胞を用いMycoplasma hominisを培養上清中に0,0.1,1,10μg/mlとなるように添加し、培養上清のIL-8をELISA法で測定したところ、IL-8の値は2.7,27,41,74μg/mlとMycoplasma hominisの濃度依存性に上昇した。RT-PCR法によりPC-3におけるToll like receptor-2とToll like receptor-4のmRNAの発現を確認した。同様の濃度でMycoplasma hominisを培養上清中に添加し、NF-κBの活性をreporter gene assayにて測定したところ、Mycoplasma hominisの濃度依存性にNF-κB活性は上昇した。これらのことから、前立腺細胞においてもToll-like receptorが発現しており、このreceptorからのシグナルがNF-κBを介して伝達され、IL-8が産生されることがあきらかとなった。 次にキノロン系抗菌薬であるgatifloxacin(GFLX)を培養上清中に添加し、IL-8の濃度を測定したところ、IL-8の産生量はGFLXの濃度依存性に低下した(GFLX:0,2416μg/mlに対しIL-8:8.9,8.8,8.1,7.2μg/ml)。そこでGFLXがIL-8産生のどの過程において抑制をかけているかを検討したところ、GFLXはIL-8 mRNA転写において抑制効果を有していることがあきらかとなった。このことは臨床的にも意義深く、慢性前立腺炎における抗菌薬の効果が、その殺細菌性ばかりではなく、サイトカインの抑制効果によってももたらされている可能性が示唆された。
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