研究概要 |
Von Hippel-Lindau病(VHL)癌抑制遺伝子は淡明細胞腎癌で最も高率に変異・不活性化が検出される腫瘍関連遺伝子であり、その腫瘍化過程で最も重要な働きをしている遺伝子の一つと考えられる。VHL遺伝子変異の有無と腎癌の臨床・病理諸因子及び予後との関係について検討を行った。VHL遺伝子変異は淡明細胞型腎癌にのみ検出され、変異は56%、LOHは90%であった。淡明細胞型腎癌202例について、VHL遺伝子変異の有無と臨床病理因子との関係をみると、初診時年齢55歳以下群で有意に遺伝子変異の検出率が低かったが、変異と他の臨床病理諸因子との明らかな関係は認めなかった。次に予後との関係では、stage I〜IIIの根治切除症例で、遺伝子変異(+)群が優位に予後良好であり(Kaplan-Meier法)、さらにCox proportional hazard modelでも独立した予後因子となり得ることが確認された。starge IVの非根治切除症例では変異検出(+)/(-)群で予後に差は見られなかった。VHL遺伝子の変異・不活性化は散発例の淡明細胞腎癌の腫瘍化過程の早期の変化と考えられ、また遺伝子変異検出は淡明細胞腎癌のstage I〜III根治切除症例では予後因子の一つになり得ると考えられた。次に正常VHL遺伝子が欠損した腎癌細胞株786-Oに野生型VHL遺伝子を再導入し、約12,000の遺伝子発現プロフィールの変化をマイクロアレイにより解析した。その結果、複数の遺伝子の発現変化を確認したが、その中で細胞周期G1/S移行の重要な制御因子であるcyclin D1がVHL/HIF系の下流に存在し、その転写、発現が調節をうけていることを確認した。今後cyclin D1を始めとしてVHLあるいはVHL/HIF系にかわる遺伝子群の同定とこれらの解析が淡明細胞腎癌の治療法の開発につながると考えられた。
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