研究概要 |
1、膀胱癌における中心体複製をコントロールする経路について 中心体過剰複製が生じる原因として種々の原因が考えられているが、ひとつにはp53の異常,もうひとつにはサイクリンEの異常がある。p53は下流のWaf1を通してサイクリンEをコントロールし,G1/Sの移行をコントロールしている。中心体の複製もG1/S期に始まりG2期に完了する。この中心体の複製とDNAの複製は同調する必要がありこの同調が崩れると中心体の過剰複製が生じる可能性がある。最近、CDK2/サイクリンEのリン酸化のターゲットがnucleophosmin(NPM)/B23であることが明らかにされた。NPMは複製前の中心体に局在するが,CDK2/サイクリンEによるリン酸化により中心体の結合能を失い中心体から遊離する。NPMの機能のひとつとしてシャペロニング(タンパク質凝集抑制能)が知られているが,NPMの遊離は中心体の構造変化をもたらし複製開始を促すと考えられている。我々は、このNPMが膀胱癌の中心体に存在することを、超遠心による中心体分離により証明した。すなわち、p53-Waf1-CDK2/サイクリンE-NPMの経路が膀胱癌において中心体複製をコントロールする経路のひとつであろうことが予測された。 2、p53の異常とサイクリンEの過剰発現による中心体過剰複製 膀胱癌では,悪性度の低いG1腫瘍から悪性度の高いG3腫瘍までいろいろな腫瘍を認め、浸潤癌ではp53の異常の頻度が高くなる。我々は,膀胱癌におけるp53の異常とサイクリンEの過剰発現による中心体過剰複製について検討した。その結果、p53の異常がある膀胱癌細胞株に中心体の過剰複製が生じており,さらにサイクリンEの過剰発現も生じていた。一方,p53の異常が無い膀胱癌の細胞株ではサイクリンEも過剰発現しておらず,中心体制御にも異常を認めなかった。さらに,臨床検体において,p53の異常のある癌に中心体過剰発現が認められること,サイクリンEの過剰発現がある癌において中心体の過剰発現が認められる傾向があることを確認した。膀胱癌においては中心体の異常は,p53の異常,サイクリンEの過剰発現と関連しているものと思われる。
|