C57BL/6マウスの新生時期にエストロゲンを投与しておく(E2マウス)と、成獣になってからほぼ全例に前立腺の異形成、腺上皮の過形成がみられた。これらの病変に伴い激しいリンパ球や好中球の浸潤を認めた。エストロゲンを出生当日から3日間投与すると前立腺の病変は全例に発症したが、7日以降に投与しても形態学的な異常や、細胞浸潤は認めなかった。前立腺に炎症をもつE2マウスの血清中には前立腺に対する自己抗体は検出されなかった。一方、生後3日にC57BL/6マウスの胸腺を摘出しておく(Tx-3マウス)と、約1/3のマウスに自己免疫性の前立腺炎が発症した。同マウスの血中には前立腺上皮細胞と特異的に反応する自己抗体が蛍光抗体間接法で確認できた。この病変は生後7日以降に胸腺摘出したマウスには発症しなかった。 生後7日の前立腺を、E2マウスとTx-3マウスの腎皮膜下にそれぞれ移植した。14日後にその移植片を病理学的に調べると、E2マウスに移植した組織は正常に前立腺に分化していたが、Tx-3マウスに移植した組織にはリンパ球の浸潤があり、上皮の傷害が認められた。Tx-3マウスに発症する前立腺炎は同系正常マウスの末梢のCD4CD25陽性細胞を注射しておくと、予防することができた。ところが、E2マウスに発症する前立腺炎は同処置では予防することができなかった。 以上のことはTx-3マウスに発症する前立腺炎は自己免疫性であるが、E2マウスの前立腺炎には自己免疫現象の関与はないものと思われる。 Tx-3マウスに生後7日あるいは14日から3日間E2を投与しておくと、高率に自己免疫性前立腺炎の発症がみられた。21日からの投与では変化がなかった。この現象は若年期E2の投与により、前立腺抗原の性状の変化やバリヤーの弱体化が示唆された。さらに環境ホルモンの免疫系に及ぼす影響を検討する上でも意義のある研究である。
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