研究概要 |
本年度は以後の研究の根拠となるHOX遺伝子の発現異常について、卵巣癌および子宮体癌の細胞株、および正常対照として正常卵巣および増殖期、分泌期子宮内膜を用いで解析した。正常対照は当科で手術を受けた患者よりインフォームドコンセントを得た後使用した。癌細胞株および正常組織からtotal RNAを抽出し、その後逆転写酵素を用いてcDNAを作成した。HOX遺伝子の子宮体癌および卵巣癌での発現プロファイルを作成するために、39個のHOX遺伝子の特異的プライマーをそれぞれ作成し、それぞれの遺伝子増幅産物をnested PCRおよびsequence法を用いて確認した。その後β-actinを内部標準に用いたreal time RT-PCR法にて癌細胞株における各HOX遺伝子の発現量の差を正常と比較した。発現の異常については、正常を1とした場合のガン細胞での発現量の増減を相対的に判定し、正常に比較し発現の2倍以上のものを異常(過剰発現)と判定した。しかしながら、遺伝子の発現減弱については正常検体から上皮のみを取り出すことが現時点では困難なため参考データとした。卵巣癌においては、39個中14個の遺伝子に過剰発現を認めた。この過剰発現はHOXBクラスターに集中して認められた。また、それ以外のクラスターではAbd-HoxホモローグであるHOXA, B, C, Dにおける7番から13番に認められた。特にHOX13はすべてのクラスターで過剰発現が認められており、HOX遺伝子異常と卵巣癌の進展に深い関係があることが示唆された。発現減弱についても多くの遺伝子で認められたが、詳細な検討については次年度の課題とした。同様に子宮体癌においても39個の遺伝子中、1個の遺伝子(HOXB13)に過剰発現が認められたが、卵巣癌とは異なり、むしろ明らかな発現減弱を6個の遺伝子に認めた(HOXA10, A11, D3, D4, D9, D10)。これらの減弱は卵巣癌とは異なり癌細胞でほぼ発現が消失してしまうもので、卵巣癌と子宮体癌の癌進展におけるHOX遺伝子の役割の違いを示唆しているものと思われた。
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