ホメオボックス遺伝子蛋白群(HOX遺伝子群)は、初期発生において手足などの構造体を構成する細胞群に対し、個々の細胞固有の位置を決定するための情報の伝達を担う転写因子の機能をもつが、リアルタイムPCR法によるHOX遺伝子の子宮体癌および卵巣癌での発現量の計測によりこれらの癌でのHOX遺伝子の過剰発現が確認され癌細胞の転移浸潤においてもこの機能を再利用している可能性が示唆された。子宮体癌および卵巣癌においてはHOXB13遺伝子をはじめとして数種類のHOX遺伝子の過剰発現が認められるが、HOXB13アンチセンス導入により過剰発現を抑制すると細胞の転移浸潤能が抑制されることが確認された。以上のことからHOX遺伝子の過剰発現は子宮体癌および卵巣癌の進展に深く関与しており、この過剰発現を利用して癌の転移浸潤能を評価することができる可能性が示された。また直接のHOX遺伝子の発現抑制で癌細胞の機能が変化したことから、癌の転移浸潤にHOX遺伝子が直接関与していることが示され、またこのことからHOX遺伝子の過剰発現を制御することで癌の浸潤抑制を制御できる可能性が示唆された。さらに子宮体癌と卵巣癌のHOX過剰発現プロファイルが異なり子宮体癌に比較し卵巣癌ではHOXB13遺伝子単独でのアンチセンス導入では浸潤能の抑制には不十分であることが示されたことから癌の種類によりHOX遺伝子の関わりが異なり多くの種類が過剰発現している場合には、その転移浸潤能の完全な抑制には複数のHOX遺伝子の発現抑制が必要であることが示された。このことは遺伝子治療の観点から考えると卵巣癌は子宮体癌よりより治療困難な癌であることを意味しており、卵巣癌での発生数や死亡者数の増加と相まって、治療に力点を置くべき疾患であることが明らかになった。
|