研究概要 |
ヒト卵巣組織を免疫抑制マウスに移植してその生着と卵胞発育を組織学的に検討した。さらに、マウス体内で発育したヒト卵胞におけるステロイド代謝諸酵素の発現を検討した。ヒト卵巣組織をNOD-SCIDマウスの背部皮下に移植、10週間生着を待った後2週間の性腺刺激ホルモン処理により、ヒト前胞状卵胞までの発育が認められた。また、これらの卵胞でのP450 SCCなどのステロイド合成系酵素は人体内で発育した卵胞と同様に発現していることが観察された。しかし、これらの卵胞内細胞には成熟卵胞に発現するとされるP45O aromatase(arom)とestrogen receptor(ER)の発現は認められなかった。これらの検討よりホストマウス体内で発育したヒト卵胞におけるステロイド代謝は正常に発現していることが明らかになった。また、NOD-SCIDマウス体内で育ったヒト卵胞は前胞状卵胞までであり、成熟卵胞まで発育は至らないことが免疫組織的に明らかになった。さらにヒト卵巣皮質をNOD-SCIDよりさらに免疫機能が欠落した、すなわち移植ホストとして優れたNOGマウスに移植した。移植部位別に卵巣組織の生着と卵胞発育を比較検討したところ、マウス卵巣嚢内が移植部位として適していることが明らかになった。さらに、NOGマウス卵巣嚢内に移植したヒト卵巣組織に約20mmの卵胞発育が確認された。この卵胞壁を免疫組織化学的に検討したところ、ER, aromが卵胞顆粒膜、莢膜細胞の核に発現しているのが観察され、この卵胞はヒト成熟卵胞であること確認された。これらの検討より、この異種移植系で発育したヒト卵胞は機能的にも正常であることが明らかになった。また、人体外においてのヒト卵巣皮質より成熟卵胞発育の誘導が世界で始めてNOGマウスの卵巣嚢内にヒト卵巣組織を移植することで、可能となった。
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