研究概要 |
オリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いて卵巣癌組織型特異性からみた発現遺伝子の違い,ならびに卵巣癌細胞株における薬剤耐性関連遺伝子について解析した。 1.卵巣癌の発癌過程に寄与する遺伝子群を検索するために卵巣癌組織33例および正常卵巣組織7例につき、約6000の遺伝子を網羅的に解析した。正常卵巣組織での遺伝子発現量を基準として、各癌症例組織での発現パターンをクラスター解析すると癌組織の遺伝子発現プロファイルは正常と明らかに区別されたが,卵巣癌の各組織型別には明らかな差異は認められなかった。癌組織で共通に発現が増加した遺伝子は97、低下した遺伝子は227あり、その中で以下の遺伝子が抗癌剤の標的分子として注目された。Cytokeratin18,Am-1=Evil, HER3,keratin19,ear-2,βtubulin、GSTπ, c-erb-B2、nm23、BRCA2,p57,IGFBP5.6.Brush-1、TGFB 1BP。とくにβtubulinはすべての組織型において発現が増加しており,卵巣癌治療の分子標的としてタキサン系薬剤がよく選択される根拠として妥当な結果であった。 2.ヒト卵巣癌細胞株におけるプラチナおよびタキサンの薬剤耐性に関連する遺伝子発現を包括的に解析して,感受性および耐性を規定する遺伝子群を抽出した。ヒト卵巣癌細胞株(KF28)およびそのシスプラチン耐性株(KFr13),タキソール耐性株,(KF28TX, KFr13TX)の遺伝子発現をしたところ、シスプラチン耐性株ではglutathioneを介する解毒系の亢進,glycolysis/glycogenesisなど糖利用の促進、transketolaseの亢進,ポリアミンの合成律速酵素の亢進が見られた。一方タキソール耐性株では、MDRやsemaphorinEなどの多剤耐性遺伝子の発現が亢進していた。さらにIL-2抑制遺伝子や免疫能の低下が観察され、化学療法施行の際の免疫システムの評価が新しい課題となる。 3.これらの遺伝子の機能と治療成績との比較により、新たな分子標的の同定や薬剤耐性のメカニズムが解明されることが期待される。
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