卵巣癌細胞株および臨床卵巣癌組織でのTGFI型レセプター発現検討結果により、TGFI型レセプターの卵巣癌細胞株における変異や欠失を見いだし、癌抑制シグナル伝達経路の重要な因子であるTGFI型レセプター補充療法による卵巣癌制御の可能性を検討する実験を行った。 TGFRI wt遺伝子をpAxCAwtに組み込み、GIGApacIIIを用いて大腸菌内で増幅し、これを293細胞にトランスフェクションし、一次ウイルス液18サンプルを回収した。さらに、二次ウイルス液作成のため、293細胞に感染させ、同時にHeLa細胞にも感染させ、293細胞を破壊し、HeLa細胞を破壊しないウイルス液5サンプルを得た。これらのウイルスの状態を制限酵素切断により確認し、野生型ウイルスの混在を否定した。正しくインサートの入っているウイルス液から、三次ウイルス液を作成し、実際にヒト卵巣癌由来TGFβRI発現の認められない細胞株に感染させ、増殖抑制効果の有無を検討した。 pAxCAwt-TGFβRIを感染させ、かつTGFβを添加したディッシュ、pAxCAwt-TGFβRIを感染させたが、TGFβを添加しなかったディッシュ、pAxCAwt-TGFβRIを感染させず、TGFβのみを添加したディッシュ、およびいずれも加えないディッシュの4群で細胞増殖を観察した。結果、pAxCAwt-TGFβRIを感染させ、かつTGFβを添加した群といずれも加えない群とでは12日後の細胞数に明らかな差違を認め、TGFβRIを発現させTGFβを添加した場合、細胞増殖抑制効果が出現することが明らかとなった。一方、TGFβを添加した群でも、またpAxCAwt-TGFβRIを感染させただけの群でも、何も加えない群に比較するとやや細胞増殖が抑制される傾向が認められ、TGFβの作用発現にはTGFβRIを介さない系も存在し、また、多量の遺伝子発現により非特異的な細胞内蛋白合成抑制が生じたと推察された。 動物実験を含むin vivoの実験系には更に高力価のウイルス液を調製する必要があるが、我々が今回用いたベクターでは四次ウイルスの産生による高力価ウイルス液の調製できなかった。 今回われわれの研究では、in vitroの系ではあるが、アデノウイルスによるTGFβRI遺伝子導入による細胞増殖抑制の可能性を示唆するモデルをつくることができた。
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