胎児の心肥大が生後の神経学的障害と関連することを示唆する報告が相次いでいることより、胎児の心機能異常と中枢神経系傷害との関連を明らかにすることは、生後の神経学的障害を予防するための大きな手掛かりとなる可能性がある。さらに臍帯圧迫が周産期の中枢神経系傷害と密接に関係しているという報告もある。そこで本研究においては、臍帯圧迫を加えることにより、胎児の心機能及び脳血流がどのような影響を受けるか、さらに、心機能の変化と脳血流の変化とは相互にどのような関連を有するかについて妊娠ヒツジを用いて検討した。 胎児左心室内にコンダクタンスカテーテルを挿入、頭皮下に近赤外光血流プローブを装着し、臍帯圧迫を加えることによる心機能と脳血流量の反応について検討した。下大静脈にバルンカテーテルを、左心室にコンダクタンスカテーテルを超音波ガイドの下で留置し、準備手術が終了した状態で、左心室の圧容量曲線を記録し、さらにバルンカテーテルによる下大静脈血流の遮断、臍帯圧迫による臍帯血流の遮断を行い、それに伴う左心室圧・容量曲線の変化、脳血流の変化を記録保存した。得られた結果をまとめると、60秒以上の臍帯圧迫は、圧迫中の胎児心臓ポンプ機能の低下をもたらした。圧迫負荷の増強に対して圧迫解除後の心筋収縮能は一時的に上昇し、ポンプ機能は増加したが、更なる負荷の増強はポンプ機能の低下を招いた。脳血流は実験中を通じて増加傾向を示し、臍帯圧迫による変化は軽度であった。これらの変化には臍帯圧迫の循環動態に及ぼす物理的影響、低酸素、アシドーシス、カテコラミン分泌などが関与しているものと思われた。
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