研究概要 |
1.水溶性HLA-G抗原の,末梢血リンパ球からのサイトカイン分泌に及ぼす影響ついて。 末梢血リンパ球は、膜結合型HLA-G蛋白を認識すると、tumor necrosis factor(TNF)-α、あるいはinterferon(IFN)-γといったT helper 1(Th1)サイトカインの分泌を減少させることがわかっているが、水溶性HLA-G蛋白を認識した末梢血リンパ球はこれとは反対に、TNF-αやIFN-γといったTh1サイトカインの分泌を増加させた。すなわち、水溶性HLA-Gは膜結合型HLA-Gと反対に作用することにより、その働きを調節していると考えられた(文献1)。 2.HLA-E抗原の,習慣流産への関与について。 原因不明初期習慣流産夫婦において、HLA-Eの多型を検討したところ、HLA-Eの各alleleの頻度、およびgenotypeは、夫婦双方において、正常夫婦と差がなかった。すなわち、HLA-Eは、習慣流産の病因には深く関わっていないと考えられた(文献2)。 3.習慣流産に対する漢方治療(柴苓湯ならびに当帰芍薬散)の免疫学的作用機序。 自己免疫異常である抗リン脂質抗体症候群による習慣流産の治療として、我国では柴苓湯ならびに当帰芍薬散を用いた漢方治療が行なわれている。これらの漢方薬は、末梢血リンパ球からのTh1サイトカイン分泌を増加させ、自己免疫異常でTh2に傾いているTh1/Th2バランスを改善して自己免疫性習慣流産を治療していることがわかっている。しかし、妊娠局所である脱落膜のリンパ球はこれらの漢方薬によってもTh1サイトカイン分泌を増加させず、またHLA-Gの作用も変化させないことがわかった。妊娠局所でTh1が刺激されないということは、局所において胎児に細胞免疫による悪影響を与えないということであり、漢方薬治療は合理的な治療であると考えられた(文献3)。
|