前2年度の研究で、HLA-Gの母体免疫系に及ぼす影響が、かなり解明されたため、最終年度の研究として、胎盤トロホブラストにおけるHLA-G発現がどのように調節されているか明らかにすることにした。これまでにもHLA-Gの発現調節機構に関する論文は存在しているが、それはHLA-Gを遺伝子導入した不死化細胞株を用いた研究のみであり、胎盤のトロホブラスト自身を用いた研究は、よい培養方法がなかったため、不可能であった。そこで、我々は、未分化な細胞性トロホブラストを高純度で分離し、それを絨毛外トロホブラストに分化させる培養方法を確立することを計画した。従来、胎盤から細胞性トロホブラストを分離する方法はそれなりに存在していた。胎盤を酵素処理し、パーコール密度勾配遠心法でトロホブラストを分離する方法である。しかし、この方法では線維芽細胞などトロホブラスト以外の細胞が混入し、トロホブラストの純度は50-70%程度にすぎなかった。また、トロホブラストも未分化なものから分化したものまで、多くの分化段階の細胞が混ざって分離されていたのである。さらに、従来のトロホブラスト培養法では、トロホブラストはほとんどが合胞体性トロホブラストに分化してしまい、絨毛外トロホブラストへ純粋に分化させることはできなかった。我々は、これに対し、従来の方法に加え、抗体付着ビーズを利用して、胎盤から未分化なサイトトロホブラストのみを95%以上の高純度で分離し、さらに低カルシウム培養液を使用することにより、これをすべて絨毛外トロホブラストに分化させる培養法を確立することに成功した。培養時間経過とともに、分離したトロホブラストは絨毛外トロホブラストへ分化し、これにともなってHLA-Gが強く発現してくることを免疫組織学的に証明した(論文1)。
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