研究概要 |
本研究は、胎盤絨毛細胞(トロホブラスト)が発現するHLA抗原の妊娠における免疫学的役割を明らかにすることを目的とした。そのために、我々は、以下に示す4つのテーマに関する研究を行なった。 1.水溶性HLA-G抗原の,母体免疫系に及ぼす影響について。 水溶性HLA-Gを認識した末梢血リンパ球はTh1サイトカインの分泌を増加させ、膜結合型HLA-G認識の場合と反対に反応し、サイトカイン分泌を調節している。しかし、水溶性HLA-G蛋白を認識した脱落膜リンパ球は、膜結合型HLA-G認識の場合と同様に、Th1サイトカインの分泌を減少させ、脱落膜内では、膜結合型と水溶性のHLA-Gが協調的に作用しているとわかった。 また、水溶性HLA-Gは末梢血リンパ球のNK活性に影響を与えないことがわかった。 2.HLA-E抗原の,母体免疫系に及ぼす影響について。 HLA-Eは、膜結合型HLA-Gと、サイトカイン毎に、協調的あるいは相反的に作用して、妊娠局所のサイトカイン分泌を微調整し、妊娠を維持していると考えられた。 3.習慣流産に対する漢方治療の免疫学的作用機序。 自己免疫性習慣流産の漢方治療として用いられる柴苓湯ならびに当帰芍薬散は、末梢血リンパ球からのTh1サイトカイン分泌を増加させ、自己免疫異常でTh2に傾いているTh1/Th2バランスを是正するが、妊娠局所である脱落膜のリンパ球はこれらの漢方薬によっても、HLA-Gの有無に関わらず、Th1サイトカイン分泌を変化させなかった。妊娠局所においては、漢方薬は胎児に細胞免疫による悪影響を与えないと考えられた。 4.HLA-G抗原の発現調節について 胎盤から未分化なサイトトロホブラストのみを95%以上の高純度で分離し、これをすべて絨毛外トロホブラストに分化させる培養法を確立した。培養経過とともに、HLA-G強く発現してくることを免疫組織学的に証明した。
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