オキシトシンの作用は産生や受容体のみならず、分解によっても制御されている。Placental leucine aminopeptidase (P-LAP)は胎盤及び妊婦血中に豊富に存在するオキシトシナーゼの本体であり、母児接点である胎盤でのP-LAP発現調節が子宮収縮に重要であると考えられている。本研究では、絨毛細胞におけるP-LAPの転写制御機構解明を主たる目的とした。 絨毛細胞モデルとして用いたBeWo細胞において、-297〜+49の領域がP-LAPの転写に重要であり、この領域には4ケ所の蛋白結合領域が存在するが、中でも-214〜-183bpの領域が最も転写活性を高めている事を解明した。この領域には転写因子AP-2α、AP-2γが結合し、P-LAP転写に機能的にも重要であることを突きとめた。更にこの領域にはIkarosという転写因子が結合しAP-2と協調的に転写活性を上昇させていることを発見したが、Ikaosはこれまでリンパ球の分化因子としての報告しかなく、絨毛細胞における機能は世界で最初の報告である。 絨毛羊膜炎を代表とする胎盤局所の炎症は早産の主たる原因である。ゲノムクローニングによって得られたP-LAP遺伝子の上流域に炎症性サイトカインの応答領域が存在した事から、同部位を介したオキシトシナーゼの抑制が相対的なオキシトシンの活性上昇につながり、子宮収縮を引き起こすと仮説をたてた。予想に反し、BeWo細胞において、炎症性サイトカインIL-1βはP-LAP活性、蛋白発現とも増加させた。また、このP-LAPの蛋白増加はmRNAの誘導を伴っていたが、この転写促進には新たな蛋白の合成を必要とし、予想されたサイトカイン応答領域を介したものではなかった。絨毛羊膜炎を伴ったヒト胎盤のP-LAP免疫染色において、炎症細胞の浸潤の著しい部位にP-LAP染色は強かった。また、P-LAPの胎盤微細構造における局在を電子顕微鏡を用いて検討し、合胞体細胞の微絨毛に存在する事を明らかにできた。
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