研究概要 |
着床成立・胎盤形成時に母体子宮内膜に浸潤する絨毛細胞の主体をなすExtravillous trophoblast(EVT)は、無制限な浸潤能を有する癌細胞とは異なり、母体側への浸潤深度・妊娠経過に伴いその浸潤能が低下する。我々はこれまでにEVTに発現する分子の同定に着手し、その結果CD9抗原・Dipeptidyl peptidase IV(DPP-lV)がEVTの浸潤を制御することを見い出した(Hirano T et al. Mol Hum Reprod 1999,Sato Y et al, in preparation)。更にCD9抗原はヒト子宮内膜癌由来細胞株の浸潤能を制御することが明らかになり(Park KR et al. Mol Hum Reprod 2000)、EVTの浸潤に関連する分子が癌の浸潤機構にも関与する可能性が示唆された。そこで本研究ではEVTに発現するEVT関連分子の癌浸潤・転移能における機能につき解析することを目的とした検討を行った。 まずヒト子宮内膜におけるEVT関連分子の発現をNorthern blot法により検討した結果、DPP-IVは分泌期子宮内膜上皮に発現を認め多くの子宮内膜癌組織ではその発現が低下していた。更に未分化な絨毛細胞に発現するExpressed sequence tag(EST9)は正常子宮内膜では発現を認めず、子宮内膜癌の1部にのみ発現を認めた。現在これらの分子の発現部位を免疫組織染色法により検討中であり、更にEST9に関しては細胞株への遺伝子導入による機能解析を施行中である。 以上、本研究により未分化な絨毛細胞及びEVTに発現する分子の中に子宮内膜の癌化に伴いその発現が変動する分子が存在することが確認された。今後、個々の分子の機能を解析することにより癌浸潤・転移機構に関する新たな知見が得られることが期待される。
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