甲状腺ホルモンは妊娠初期において絨毛性トロホブラストの機能分化を促進し妊娠維持に重要な役割を果たす。一方、受精卵の着床に際しては絨毛外トロホブラスト(EVT)が重要な役割を果たすことから、甲状腺ホルモンがEVTの浸潤能に及ぼす影響を解析することは臨床的に興味深い。 これまでの研究で、EVTは脱落膜浅層より深層に侵入するに従い、Fas/FasL、BaXといったアポトーシス誘導因子の発現が高まり、他方、アポトーシス抑制因子のBcl-2蛋白発現は弱くなり、脱落膜深層でアポトーシス発現が高くなること、また、EVT培養細胞系を確立し、EVTに甲状腺ホルモン受容体が存在し、甲状腺ホルモンはEVTのFas/FasLならびにCaspase3発現を抑制することによりアポトーシス発現を抑制することも明らかにしている。 本年度の研究では甲状腺ホルモンがEVTの浸潤能に及ぼす影響を解析することで、甲状腺機能低下に伴う流産に対する甲状腺ホルモン補充療法の有効性とその分子メカニズムを明らかにした。我々はin vitroEVT培養系を確立するとともに、生理的濃度の甲状腺ホルモンがマトリゲルにおけるEVTの浸潤能を促進し、かつ培養EVTにおけるintegrin α 5 β 1ならびにoncofetal fibronectin mRNA発現を高めることを見出し、甲状腺ホルモンはEVTの細胞接着関連分子発現調節因子の一つと考えられ、至適濃度の甲状腺ホルモンは細胞接着関連分子の調節を介してEVTの脱落膜侵入に大切な役割を果たすことを報告した。
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