黄体化ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌異常症の原因については、下垂体細胞の受容体異常や細胞内情報伝達系異常も原因の一つとして考えられている。今回、我々は、LH、FSH分泌異常症の分子生物学的解明を目的として、αT3-1細胞とLβT2細胞といったゴナドトロピン産生培養細胞を用いて研究を開始した。LH、FSH分泌機構については、今なお不明の点が多く、細胞内情報伝達系については未解明の分野が多い。 ドーパミンは視床下部に存在するGnRHパルス発生器に作用してGnRHパルスを調節することによってLH、FSH分泌を調節すると考えられている。一方、プロラクチン(PRL)を産生するラクトトローフは直接ドーパミンの調節を受けている事が知られてしいる。そこで平成13年度我々は、LH、FSHを産生するゴナドトローフがドーパミンの直接支配を受けうるかどうかを細胞内情報伝達物質をを指標に検討した。 まず、単一ゴナドトロピン産生細胞であるαT3-1細胞を用いてLHの産生機構、なかでもゴナドトロピンのα-subunitの産生機構における詳細な情報伝達系の解明をめざし研究した。その結果、ドーパミンD2j受容体の存在を確認する目的で、mRNAの存在をRT-PCRを用いて検討し、long formのドーパミンD2j受容体の存在を確認した。GnRH刺激によりα-subunitの発現は2.5倍に上昇し、PACAP刺激はα-subunit発現を2倍上昇させた。α-subunit発現に対するドーパミンD2j受容体アゴニストquinpirolの効果を検討すると、GnRH刺激によるα-subunitの発現増加に対しては影響が見られなかったが、PACAP刺激によるα-subunit発現増加は抑制された。一方、GnRHはMAPキナーぜを活性化したが、PACAP刺激ではMAPキナーゼの活性化は見られなかった。 以上より、αT3-1細胞では、GnRH、PACAPはゴナドトロピンのα-subunit産生を促進するが、GnRHはMAPキナーぜを介して、PACAPはcAMPを介して作用する事が明らかになった。
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