黄体化ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌異常症の原因については、下垂体細胞の受容体異常や細胞内情報伝達系異常も原因の一つとして考えられている。今回、我々は、LH、FSH分泌異常症の分子生物学的解明を目的として、αT3-1細胞とLβT2細胞といったゴナドトロピン産生培養細胞を用いて研究を開始した。LH、FSH産生、分泌機構については、今なお不明の点が多く、細胞内情報伝達系の詳細については未解明の分野が多い。 昨年までに、我々は、1)αT3-1細胞においてD2ドーパミン受容体が存在しPACAP刺激によるLHαサブユニット産生にはネガティブに作用すること、2)ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)、PACAPの両者ともαサブユニット産生を促進するが、3)GnRHはmitogen-activated protein kinase (MAPキナーゼ)を介して産生に関与し、4)PACAPはcAMPを介して産生に関与することを示した。 今回我々は、GnRHによるLH産生、分泌機序を解明するために、αサブユニットしか産生しない事で知られるαT3-1細胞にLHβサブユニットcDNAをトランスフェクトし、GnRHに反応してLHを産生、分泌する新しい細胞株であるLH2細胞を樹立し、以後の実験に供した。その結果、GnRHの脈動的投与や持続的投与により細胞内LHタンパク量は増加し、GnRHで前処置すると、GnRHとKClの短時間刺激でLH分泌を増加させた。LH分泌は、細胞外Ca^<2+>の除去により部分的に抑制された。GnRHによるLH分泌は、Cキナーゼ阻害剤であるCalphostin Cにより抑制された。これに対して、高濃度Kにより誘導されたLH分泌は、Ca^<2+>/calmodulin-dependent protein kinase II (CaM kinase II)阻害剤であるKN93やwortomanninにより阻害された。また、cAMP系の細胞内情報伝達系はLH分泌に関与するが、MAPキナーゼ系は分泌には関与しない事も明らかにした。以上の事から、我々が今回樹立した新しい細胞株であるLH2細胞がLHの産生、分泌機序を今後研究する上で有用である事も同時に示していると考えられた。
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