研究概要 |
フタル酸エステルは合成ポリマーの可塑剤として広く利用されている。これらのエステルは、病態に不明の点があるが,精巣の萎縮を誘発することが知られている。 今回、35日齢のウィスター系ラットにDi(2-ethylhexyl)phthalate(DEHP)を2g/kg経口投与することにより内分泌撹乱物質の精巣に及ぼす影響を検討した。投与直後から24時間後までの精巣の組織の変化を光学顕微鏡、電子顕微鏡を用いて検索した結果、6〜9時間後に精細管に変性した精母細胞や多核の精子細胞が多数観察され、免疫組織学的には、TUNEL陽性細胞が精細管中に検出され、生殖細胞のアポトーシスが誘起されることが示唆された。この際、精巣のO_2^-やH_2O_2などの産生が増加する事、精巣の主要な抗酸化物であるグルタチオンやアスコルビン酸などの濃度が低下すること、精巣から分離したミトコンドリアを用いた実験により、DEHPの代謝産物であるモノエステル(MEHP)がチトクロームCを著明に遊離させることが判明し、MEHPにより引き起こされた酸化ストレスが主としてミトコンドリア機能を破壊し、チトクロームCの遊離を起こし,それにより、精子形成細胞のアポトーシスを引き起こし,精巣の萎縮の原因となることを示していた。 DEHP投与ラット精巣と対照ラット精巣よりそれぞれmRNAを単離し、^<32>P標識したcDNAを合成し、DNAアレイを用いて、その遺伝子発現パターンを解析した。その結果、testis lipid-binding protein(TLBP)など、数種の遺伝子の発現が著明に減少していることが判明したが、RT-PCRやISH解析では遺伝子発現の減少は顕著ではなかった。 ISH解析による遺伝子の発現を数値化し様々な遺伝子の発現の増減、精細管内の各細胞での発現強度の差をより明確にすることを目的に、モデル実験系としてribosomal RNAを用い精巣内の遺伝子発現の半定量化を試みた。その結果、精細管のステージ特異的な発現の差をポスタリゼーションにより半定量化し、DNAアレイのデータとの連携が可能となった。
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