研究概要 |
正常月経周期を有する子宮内膜、閉経後子宮内膜、内膜癌において定量的RT-PCRをもちいてERαwild type (ERWt),exon5あるいはexon7欠失エストロゲン受容体α(ERΔ5、ERΔ7)mRNAの発現量を検討した。その結果、月経周期内変動はERWtについては従来報告されているように排卵直前に最大発現量を示し、血中E2濃度に一致した変動を示したのに対してERΔ5は内膜増殖期中期にERΔ7は月経直前にその発現量のpeakを認め、ERΔ7およびERΔ5についてはエストロゲン非依存性の発現調節機序が示唆された。一方、ERΔ5については子宮内膜増殖症、内膜ポリープ、内膜癌において有意にその発現量が増加しており、正常月経周期内膜においてその発現量は常にWt>ERΔ5であるのに対し、内膜癌ではWt<ERΔ5である症例が45%にも及んでおり、ERΔ5発現量の増加と細胞増殖能との間に因果関係が示唆された。一方閉経後内膜においても15%の症例においてWt<ERΔ5の発現様式を認め、低エストロゲン環境下における内膜の適応反応とも考えられた。ことに閉経後の子宮内膜増殖症例においてはほとんどの症例においてWt<ERΔ5の発現様式を認めており、ERΔ5がdominant positiveな作用を有しているとの報告もあり、低エストロゲン環境下においてERΔ5の発現量の増加はエストロゲン依存性内膜がエストロゲン非依存性に維持され、且つ細胞増殖をするのに極めて有利に作用すると考えられた。また子宮内膜癌石川株にレプチンを添加培養したところ、ERαWtの発現量の変化は認められなかったが、ERΔ5mRNAの発現量は容量依存性に有意に増加した。またレプチン添加により有意な細胞数の増加が低エストロゲン環境であるにもかかわらず認められた。このことより閉経後肥満婦人の高濃度血中レプチンは低エストロゲン環境下にある子宮内膜に作用し、ERΔ5の発現量を増加させることによりエストロゲン非依存性を強め、内膜癌発生の母地である内膜の維持に極めて有利に作用していると考えられた。
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