研究概要 |
腹膜播種,血管新生抑制を標的とした卵巣癌に対する分子標的治療および遺伝子治療の確立を目指し,様々な分子標的因子を対象に基礎的研究を行い,以下の結果が得られた。 1)hepatocyte growth factorのアンタゴニストであるHGF/NK4には,in vitroにおいて細胞遊走抑制作用があり,またin vivoにおいて腹膜播種抑制作用が認められた。 2)urinary trypsin inhibitorであるbikuninには癌細胞の浸潤抑制および転移抑制作用がみられる。bikuninの活性部位であるHI8に,癌細胞に高親和性を有するATFを付加したキメラ遺伝子ATF-HI8の作製に成功した。ATF-HI8には著明な細胞遊走抑制作用と浸潤抑制作用が認められた。 3)炎症抑制性サイトカインIL-10には血管新生抑制作用があり,またそれを介して卵巣癌担癌マウスの腫瘍増殖の抑制,および腹膜播種の抑制作用が認められた。またIL-10発現AAVベクター(AAV-IL-10)を作製して,in vivoでの効果を検討した。その結果,AAV-IL-10のマウス骨格筋への筋注により,卵巣癌担癌マウスの新生血管数は減少し,腹膜播種腫瘍数が減少し,さらに担癌マウスの生存期間の延長がみられた。 4)VEGFの受容体のひとつであるFlt-1の可溶型であるsFlt-1の作用を検討した。IL-10と同様に血管新生抑制を介して,卵巣癌担癌マウスの腫瘍増殖抑制,および腹膜播種の抑制が認められた。sFlt-1発現AAVベクター(AAV-sFlt-1)を作製して,in vivo投与を行ったところ,新生血管数の減少,腹膜播種腫瘍の減少がみとめられた。 以上より,HGF/NK4,bikunin(ATF-HI8),IL-10,sFlt-1などの分子標的因子には,血管新生抑制,遊走・浸潤抑制作用を介して,卵巣癌の腹膜播種を制御する作用があることが判明した。またIL-10やsFlt-1においては治療遺伝子のAAVベクター化が成功し,将来の卵巣癌遺伝子治療に向けての足掛かりができた。
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