ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)が非絨毛性疾患の中でも特に子宮癌において異所性に産生されることが知られている。一方、多分化能を有するヒト胎児性癌細胞・NCR-G3細胞が、分化誘導剤のレチノイン酸(ATRA)によりhCGを産生し栄養膜細胞へと分化する過程において、マクロファージコロニー促進因子(M-CSF)とその受容体のc-fmsが機能的に重要な役割を有することを我々は報告してきた。本研究では子宮頸癌における異所性hCG産生とM-CSF/c-fms情報伝達系との関連を検討し、その産生メカニズムを分子生物学的に解明することを目的として研究を進めてきた。まず、本研究室において樹立されたヒト子宮頸癌細胞株4種類(SKG-1、SKG-II、SKG-IIIa、SKG-IIIb)を用いてRT-PCR法にて、M-CSFとc-fmsのmRNAレベルでの発現を解析した。その結果全ての細胞株でM-CSFおよびc-fms mRNAの発現が認められた。一方hCGα、hCGβ mRNAの発現も同様にRT-PCR法で解析した結果SKG-1、SKG-IIIbではhCGα、βの両mRNAの発現が認められ、一方SKG-II、SKG-IIIaではhCGβ mRNAのみ発現が認められた。次に、分化誘導剤であるSodium Butyrate(SB)あるいはATRAを各細胞株に添加し培養上清中のhCGとβ-hCGの産生を測定した結果、培養上清中にhCGとβ-hCGの産生を認めたのはSKG-Iのみであった。特にSBを添加した際にはhCGとβ-hCGの産生がともに認められるようになったが、ATRAを添加した際にβ-hCGのみ産生が認められた。以上より、M-CSF/c-fmsの発現が認められかつhCGの産生が確認されたSKG-I細胞に着目して実験を進めた。すなわちリコンビナントM-CSF、M-CSF中和抗体、c-fms中和抗体をそれぞれATRAにて分化誘導させたSKG-I細胞に様々な濃度で添加し、β-hCGの産生が促進あるいは阻害されるか否か検討を行った。その結果、残念ながらリコンビナントM-CSF、M-CSF中和抗体、c-fms中和抗体はβ-hCGの産生に全く影響を及ぼさなかった。またリコンビナントM-CSFはSKG-Iの増殖にも影響を及ぼさなかった。これらの結果から、非絨毛性疾患の特に子宮癌における異所性hCG産生においては、胎盤での栄養膜細胞分化におけるhCG産生の機序とは異なる機序の存在することが示唆された。
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