試作した超音波微小変位計測システム(超音波位相差原信号のデジタル直交検波により、約1.7mm間隔で連続した32チャンネルのドプラデータを解析できるシステム)を用い胎児信号を採取し、基礎的検討を行った。1)胎児心拍数の高精度計測法。超音波ドプラ位相差信号を用いた複素相関法(動きの方向を加味した2次元での自己相関法)や、胎児心臓弁の特徴的なフラップ信号の瞬時周波数の解析により、従来の自己相関法を用いた手法に比して精度の高い胎児心拍数の推定が可能になった。2)胎児不整脈診断への応用。胎児不整脈の診断には従来Mモード法や、ドプラ血流計測が行われていたが、前者は超音波画像を時間軸でみるため分解能が低いこと、後者は1点の計測しか行えないことから、診断に熟練を要した。本手法では複数のポイントで変位計測が可能であるため、心房収縮と心室収縮を鑑別でき、上室性不整脈、心室生不整脈、完全・不完全AV blockの等の胎児の不整脈鑑別診断に有用であった。3)胎児血圧推定。微小変位計測法を用い、胎児大動脈の血管壁拍動波形を記録した。400-900micrometerの胎児下行大動脈の拍動波形が連続的に記録可能であった。この波形の振幅から胎児の血圧の絶対値を求めることは不可能であるが、限られた単位時間内では胎児の脈圧の変化を表す指標として有用であり、胎児血圧変化を推測可能であると考えられる。胎児の心拍・血圧が変化する臨床的モデルとして経母体的なステロイド投与症例の胎児における心拍数と脈圧の変化を検討したところ、ステロイド投与後24時間では胎児心拍数の減少と血管壁の振幅の上昇(脈圧の上昇)が計測された。本手法により胎児の心拍・血圧制御機能の微細な変化を定量的にとらえることが可能と考えられた。以上開発中のシステムは胎児心血管系・循環系の機能評価、発達評価に臨床上有用な情報を提供しうる基本的な方法論として有望であると考えられた。
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