研究概要 |
大脳基底核の障害による偽性球麻痺の発症メカニズムは解明されていない。われわれはこの病態の背景として大脳基底核から中脳を介して脳幹網様体へ至る情報伝達過程の障害を想定し,この系の微小回路、神経伝達物質、受容体の解析を試みている。 過去の解剖生理学的知見によれば、中脳のなかでも脚橋被蓋核(PPN)と赤核後領域(RRF)は中枢神経系全体の興奮性の保持や運動リズムの形成において重要な役割を担うことが示唆されている。そこで平成13年度は、大脳基底核出力部である黒質網様部(SNr)から中脳のPPNおよびRRFへの投射様式を解析した。具体的にはSNrからPPNおよびRRFに対して本当に入力があるのか、もしあるとすれば、その際、どのような神経伝達物質やシナプス機構が働いているのか、について検討した。 PPN、RRFおよびSNrを含んだラットの脳幹スライス標本を作製し、SNrの電気刺激に対するPPN、RRFの神経細胞の応答をホールセルパッチクランプ法を用いて記録、解析した。その結果PPNのコリン細胞、非コリン細胞およびRRFのドパミン細胞のいずれに対してもSNrの電気刺激は抑制作用をもたらすことが解った。またPPNに対してはGABA_A受容体を介して、RRFに対してはGABA_A受容体とGABA_B受容体の両方を介してこれらの抑制効果を発現させることが明らかとなった。 これらの結果の一部は岡崎共同研究機構・生理学研究所・統合生理の伊佐正教授と共同で、第16回日本大脳基底核研究会(2001、三島)、第24回日本神経科学会(2001、京都)、第31回北米神経科学会(2001、San Diego)にて発表した。
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