近年の脳科学の進歩に伴い、神経軸索障害部の環境さえ良ければ、中枢神経系においても再生する系があることがわかってきている。特に、神経幹細胞をはじめとした幼弱神経組織の移植が中枢神経障害の再生に、極めて有利に働く事が知られている。以前から聴覚中枢の機能局在について、特に両耳機能との関連で中脳レベル以下の脳幹部聴覚中枢について検討してきたが、今回DNLLから下丘などへの交差性求心性投射路である、プロブスト交連切断モデルにおいて、胎仔脳組織の移植や薬剤投与などが、起始ニューロンの神経再生を促す可能性について検討している。 14年度には、障害部位への胎仔脳組織の移植実験のための手技的基礎実験を進めるとともに、起始ニューロンの神経変性を抑制しうる薬剤として、現在市販され通常臨床で使用可能な漢方製剤である当帰芍薬散(TJ-23)のもつ、フリーラジカル消去(抑制)作用に着目した。なるべく副作用が少なく臨床応用可能な薬剤の中で、神経の保護や再生に有効な薬剤が見つかる事が大変望ましい。このフリーラジカル消去作用は、正常動物の脳に常に存在するフリーラジカルを減少させることから、ある種の脳病変に対して保護的な働きがあることが知られているが、神経障害モデルでみられるフリーラジカルの増加に対する効果は知られていない。今回、プロブスト交連切断モデルと合わせて、このフリーラジカルの変化がより明瞭に観察できる系である、顔面神経障害モデルにおいてもTJ-23の効果を検討中である。現在まで神経障害後に発現するNOSについてみると、TJ-23は発現抑制効果が認められる。今後さらに強いフリーラジカル消去作用をもつといわれるTJ-15についても検討し、神経細胞障害抑制作用がみられるか調べる予定である。
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